小骨通信 2001/02
2001/02/07
i Hola ! 帰ってまいりました。
無事で元気です。
いやー、素晴らしい国でした。キューバは。
ヘミングウェイが移り住んだ気持ちがわかります。
街や自然もいいですが、人がいいですね。
音楽が溢れてるし。笑顔が溢れてる。
この小骨通信読者の何人かがキューバにずいぶん
はまったと聞きましたが、私もはまりそう。
なんだろう、まだうまく説明できませんが、
とにかく日本で伝えられているアメリカ経由の情報とは
全く異なるイメージというのは確かなような気がします。
とにかく陽気でいい国ですよ。
それでもって、怠惰ではなく。
短い滞在だったので、正確にはつかめてないとは
思いますが、見たものをシェアしていきたいと思います。
まず、面白いなと思ったのが、キューバは社会主義の国
なので、教育に選択肢が全くないこと。すべて公立学校です。
これって当たり前だけど、衝撃でした。
日本でもアメリカでも、教育にもっと選択を!という動きですよね。
ここは一つ。建国の父ホセ・マルティという人の思想に基づいて
教育が行われています。でも彼の考えが嫌いな人はいないみたい。
皆学校が楽しくてたまらないといった感じです。
もっとも選択肢がないといっても、高校や専門学校、大学は自分の
進みたいところへいけるし、学校内でも、興味の対象をとことん
勉強できるようになっています。
教育・医療・福祉はみんなタダ。世界の中で経済発展を遂げる!
などというところではなく、国民が皆、健康で幸せに、そして自己を
高めて生きていける、そんな社会を創ろうとしている姿勢が見られ
ます。そして、それは現時点でかなり成功しているように見えました。
かといって、経済的なところは無視しているわけでなく、まず土台
をきっちりするのが先決ということで、人づくりに今は注力している
様子。物は確かに少ないですが、日本や米国が多すぎるんですよね。
交通の足が少ないようで、バスはすし詰め、道にはヒッチハイクをする
市民がたくさんいます。不便ではありますが、助け合って生きてて
いいなあと感じました。自分が見知らぬ人を乗せたり、乗せてもらっ
たりするのに抵抗を感じてしまうのは、すごく不自由なことと思いました。
また、適当に書いていこうと思います。ご意見くださいませ。
2001/02/12
キューバ報告について感想たくさんありがとうございます。
感想の中に、教育に選択肢がないならないで、親の心が
ぶれなくっていいかも、という意見ありました。なるほど
そうかも知れませんね。私が一つずーっと引っかかってい
るのが、現在のキューバの状況が、かつて明治時代の日本
の教育のように、選ぶ選ばないとかいう時代でなく、ただ
いろんなことを学んでいける場であるというだけでありがたい
状態であるのか、それとも唯一の教育がうまく機能していて
皆が満足している状態なのかということです。
たとえて言えば、物がない時代でそばが口に入るだけで
ありがたい状態なのか、いろんな食べ物があることを知っ
てるけどそばしか食べれず、だけどそのそばはとっても
おいしいので、皆感謝して文句のない状態なのか。
短い滞在で、そこはちょっとわかりませんでした。もし、
前者なら、そのうち日本と同じような問題が出てくるかも
知れません。私の感覚としては、それもなきにしもあらず
かなあと思います。もうすでにいるのかも知れませんが、
不満分子というのが出てきても不思議じゃないかな。ですが、
後者の要素も大きそうに感じます。本当に子どもの成長
を考えた教育方針じゃないかなと思います。日本のように
予算や組織の都合で教育システムがきまったり、大臣が
流れに沿わない発言をしたりってことは、なさそう。
現場の教師も国会議員も国のリーダーカストロも、何か
私には滅私奉公のイメージです。また全然違うように
とる人もあるでしょうが。
たぶん明日から4回で、北陸中日新聞に私の書いた文章
が載る予定です。石川の人で中日とってるひとは見てくだ
さいませ。この小骨にも後で流します。
(それってまずいのかな?)
2001/02/14
骨太です。前回の小骨でお伝えした、北陸中日新聞に
記事が載りました。ご覧に慣れない方のためにここで
流します。紙面とは若干異なるところありますが、打ち
直す手間を省略させていただいて、元の原稿で読んで
ください。それでは!(4回まで続くはず)
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コロンブスが今から約五百年前に「発見」し、「人類が地上で目にした最も美しい土
地」と絶賛した島、キューバ。カリブ海に浮かぶこの国は、ラテン音楽「サルサ」や
野球、バレーボールが強いことなどで知られているが、それ以外は日本ではあまり情
報がないのが実情。その未知の小国キューバが、教育や福祉の分野で世界からの注目
を集め始めている。経済的には決して豊かでないけれど、心は大変豊かだと言われ
る、陽気なキューバ人の国民性は一体どこから来ているのか、子どもの成長に関心の
ある私は行ってこの目で見てくることにした。
キューバは日本本州の約半分の国土に、約千百万人が暮らしている。今から約四十年
前に革命によって実質的な独立を勝ち取ってから、カリブ海唯一の社会主義国家とし
て発展してきた。しかし革命後の道のりも険しく、アメリカによる経済封鎖、そして
ソ連の崩壊によってキューバの経済は危機に陥る。かなり持ち直したとはいえ、世界
の基準ではまだ発展途上の国。そんなこの国の最重要政策は経済成長ではなく、国民
が健康で幸せに暮らし、人間としての質を高めていくこと。実に国家予算の五分の一
が教育に当てられ、また五分の一が福祉へという、先進国といわれる国から見ると、
ずいぶん思い切った配分。国力のアップは、まずその基礎である人間を育てること、
経済政策はその土台があってこそ可能という考え方。教育は誰にでもチャンスがある
ように、小学校から大学まで全て無料。スポーツも医療も全てタダ。人口四十ニ人に
一人が教師で、百六十人に一人が医師。それでもまだ不足という。革命前に七十四%
だった識字率も、現在はほぼ百%。平均寿命も乳児死亡率も先進国並。キューバ発の
医療技術や薬品も多く、チェルノブイリの事故に遭った被爆児童の人道的支援を今な
お続けている。また、国の経済も年約五%の成長率と決しておろそかであらず。今な
おアメリカの経済封鎖が解けない逆境の中で、キューバの強さの秘訣を、教育の現場
を通して見ていきたいと思う。
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最初に訪れたのが、首都ハバナ市内にある公立小学校。この国ではほとんどの商売は
国営であり、教育ももちろん公立のみ。即ち、教育における選択肢は存在しない。一
クラス二十〜二十五人で、全児童数は四百三十四人。先生は担任のほかに科学、歴
史、アート、体育の先生や司書もいる。朝は八時から始まり、ランチタイムは二時
間。家に戻って昼食を食べるが、共働きの家庭の子は学校で給食を食べる。午後四時
二十分に授業が終わるが、七時頃まで学校でサッカーやバレー、チェスに興じたり、
地域の野球チームで活動したりする。
教育方針の根幹は、キューバ建国の父、ホセ・マルティの思想。詩人であり、思想家
であり、ジャーナリストであり、独立運動の指導者であった十九世紀の彼の考えは人
道主義。私利私欲とは無縁な人格者のこの精神は、今も国民の心にしっかりと息づい
ている。話はそれるが、キューバはカストロ独裁政治のイメージが強い。しかし
キューバを目の敵にしているアメリカの宣伝と考えた方が自然だろう。逆に真の人間
愛に基づいた政治をしている印象を受けた。国民からの信望も厚い。
多くの授業は日本でいう総合学習のような感じ。特に午後は農場で作業することが授
業となっている。仕事と勉強は同一というのもマルティの考え。けれども決して価値
観の押し付けという風ではなく、子どもたちはこう語ってくれた。「自分の考えは
はっきりと言える」「興味あることはどんどんやらせてくれて、先生はそれをサポー
トしてくれる」「宿題はたくさん出るけど楽しいし、理解できていないところは一人
ひとりに違う課題を与えてくれる」「嫌なこと?・・・授業時間が終わるときかな」
あまりに出来すぎたお答えだが、それが先生によって言わされているものでないこと
は、子どもの様子で一目瞭然。本当に楽しそうなのだ。その小学校に着いた瞬間から
全校生より大歓迎を受け、劇や歌やダンスの雨あられ。前にひっぱり出された私も、
ラテンのリズムでジャパニーズなステップを踏み、先生と一緒に踊り狂って、大喝采
を浴びる。学校ってこんなに愉快なところなのか?握手の嵐でなかなか帰ることがで
きず、そして帰りたくなかった。ああ、これがキューバの基礎なのか、と何か一つ理
解できた感じ。また行きたい!
2001/02/15
南手骨太です。昨日に続き新聞記事をオリジナルの文章でお届けします。
次に訪れたのが中学校。一クラス三十〜三十五人で、全部で十二クラス。授業は七時
半から五時ごろまでで、農業やアート、スポーツなども含まれる。他にテレビ番組を
制作したり、校内のFM局で近くを飛ぶ飛行機と交信したり、農作物から薬品を作り出
したりと、興味あることがどんどん実践でき、将来の職業を考える上で大きな意味を
持つ選択授業も中学の段階からある。小学校も中学校もテストにパスしなければ留年
となり、この九年間の義務教育を終えないと仕事には就けない。そして十六歳で成
人、一人前の大人として認められる。
授業の形式や設備は日本の中学校とさほど違いがあるようには思われない。けれどこ
こで学校が嫌だという生徒は少ない。国の体制の違いで、将来に対する不安、プレッ
シャーが少ないということはもちろんあるだろう。この社会主義のキューバでは住居
はほぼ無料。食料のうち最小限の分は配給、教育・医療・福祉も無料、税金もない。
そこそこに働いても生活は十分できる。そして、より皆のために働く意志があれば、
その仕事に応じただけの収入はある。しかし資本主義国家のような極端な貧富の差と
はならない。学校での勉強も、すればするだけ好きな仕事に就くチャンスは増える
が、できなくとも貧困にあえぐ必要はない。自分にあった仕事を見つけることはでき
る。この国で仕事の口がないということは今のところないようだ。また、気候が温暖
で、みんな根が陽気だということもその理由かもしれない。
けれども、そういうことだけでは説明できない違いがある。ここでは生徒と先生の関
係は兄弟姉妹のようだと言う。親に話せない相談を先生にする。生徒が自宅で開く
パーティーに、自然と先生も招かれる。学校とか教科だとかの枠を超えた、人生の先
輩という感じだろうか。
この国では子どもは宝と考えられている。先生はこの宝を育てる誇りある仕事、そし
て仕事というよりも、兄姉として生徒に接する姿がある。校長、教頭もマネジメント
の仕事をしながら教壇に立ち続けるし、生徒のことも全て把握している。閉店時間
ぴったりに店が閉まるこの国で、生徒の話をじっくり聞き、来客にもきっちり対応し
てというのは、ものすごいことだと思う。教師という仕事を、責任とプロ意識、そし
て無限の愛情を持って遂行する姿に感動を覚えずにはいられなかった。
2001/02/17
中日新聞記事第3回目。読んでいただいて感謝です。
キューバでは望めば高校へは無試験で行くことができる。他の選択肢として、職業技
術やスポーツを学ぶ専門学校などもある。今回訪れたのは、科学技術に力を入れた高
校。国の将来を託した国家的なプロジェクトで、ここは入試によって選ばれた学生三
千六百人が学ぶ、いわばエリート校。三百平方キロの広大な公園ゾーンの一角に全寮
制のその高校はあった。野球場はもちろん、プールが三つ、映画館、劇場、専用の病
院、農場、工場まで備えたちょっと信じられないような高校。教師も特別に選ばれし
者三百人以上。子どもたちにとっては憧れの高校だ。かといってエリート然としてい
る風は全くなく、校内のいたるところで学生たちがのびのびとしている風景を見るこ
とができる。農園でとれた自家製グレープフルーツジュースのもてなしが、最高にう
れしい。
校内の案内は、その場所を受け持つ学生が説明してくれた。とても親しみが持てて感
じがいい。聞くと今三年生で大学を受験するという。四歳から医者になりたいと思っ
ていたと、その女の子は語る。他の学生も、早い時期に自分のしたいことを見つけ、
その勉強を続けているとのこと。前回も触れたが、やりたいことは将来を待たずして
どんどん体験できる環境がある。大学の医学部も、一年生から病院で仕事を手伝いな
がら学んでいくそうだ。
校内の一角で、学生の人だかりができていた。寄っていって聞いてみると、キューバ
の有名なバンドグループがライブビデオの撮影をしてるとのこと。ここの学生は本当
に何という素晴らしい環境にいるんだろうと実感。それよりも何よりもうらやましく
思ったのが、廊下をすれ違う男子学生と、校内を案内してくれていた男性の校長が、
親しげに握手を交わし、女子学生が校長に寄ってきてほっぺをくっつけてチュッとや
り、楽しそうに言葉を交わしてたこと。もちろん日本にはキスの習慣はないが、校長
と学生があんなに親しくふれあうことってあるだろうか。あの光景こそ、キューバ教
育の原点なのではないかと、真剣に思う。
2001/02/18
新聞記事最後の文章です。また感想などお聞かせいただければうれしいです。
キューバの教育機関で最後に訪れたのは、四肢に障害のある子の通う特別学校。ここ
の大きな特徴は、普通学校へのトランジットのための学校であるということ。即ちこ
こで卒業まで健常者と離れて過ごすのではなく、学校の勉強をしながら身体的トレー
ニングを積んで、普通学校でも生活できるようになったら、地域の学校へ移ることを
目的にしている。また、普通学校へ転入してからも、国や地方の役人はその子を二年
くらいずっと気にかけ、うまくいっているか確認するという。
学校の中庭では、近所の健常な子どもも一緒に混じって野球をしている。糸のほつれ
た固いボールを投げ、車椅子の子が棒切れのバットで打ち、別の子が足を引きずりな
がら塁に向かう。外野の車椅子の子がボールを追う。グローブはヘナヘナの薄っぺら
いもの。まわりで他の子や先生たちが歓声をあげる。ランナーが逆周りで走っても、
そのままゲームは続く。ミスしても誰も責めず、ただ楽しくてやっているといった感
じだ。夕陽の中で、何とも豊かな時間の流れを感じた。
この国で障害に対する偏見、差別が見られないのはもちろん、キューバは世界一人種
差別の少ない国としても知られている。白人、混血、黒人、いろんな肌の色の人が暮
らしているが、その身分の差、意識の差、能力の差は全く感じられない。となると、
いろんな国で今なお続く人種差別というのは一体誰が引き起こしているのだろうか。
キューバでは教育と福祉に国家予算の四十%が投入されているとはいえ、まだまだ足
りないのが現状。けれども豊かな愛はいたるところに溢れているのをこの目で見るこ
とができた。かつての日本もこうだったのだろうか。貧しくて物はなくとも、心は豊
かで、学校で勉強を習うことが楽しくてしょうがなかったのだろうか。先生と生徒は
互いに心が通じ合っていたのだろうか。
今の日本の教育には何が必要なのか。もっと多くの予算なのか、それとも制度の変更
なのか、学習内容の見直しなのか。議論する前に、ぜひ皆で日本を外から眺めてみた
い。
2001/02/28
ひさびさ登場となりました。ホームページに新聞記事と
キューバで撮ってきた写真を載せましたので、よろしけ
ればご覧下さいませ。(小骨通信のバックナンバーも)
http://www.spacelan.ne.jp/~hone/
また、いろんな方からご感想たくさんいただきました。
内容が深いものも多くって、まだ返事してない方もあり
ます。ごめんなさい。この場を借りて少し書きたいと思
います。
まず、そんないい国なら何で、ボートに乗ってアメリカ
に亡命するのか?というご意見に対しまして。
これはキューバ人の話では、ごく一部の亡命者をアメリ
カが誇大に宣伝しているということのようです。そりゃ
キューバ人でも何人かは、外からの情報で、大量生産大
量消費の物質文明がうらやましく思うのはいるでしょう。
それを、キューバをつぶしたいアメリカが、あたかも生
活苦で命からがら逃げ出してきたかのように報道してい
るということだそうです。事実、コスタリカからの亡命
ボートが途中キューバによって2名のせ、フロリダについ
たら、キューバ人は喜んで亡命を認め、他は追い返した
という話もあるそうです。それを考えると、北朝鮮の悲
惨な報道ってのも、差し引いて見ないといけないかと思
います。もっとも行ってみてキューバは外国に対しては
ものすごくオープンで、アメリカ人でさえウェルカム。
実際生活も必要十分な水準と思います。交通機関が足り
ないくらい。(でもおかげで皆助け合って生きていると
いういい点もあります)
もっともアメリカが経済封鎖をとかないのは、革命時に
キューバを離れたマフィアが利権を失うからそれに抵抗
しているという話もあり、米国の有名ホテルチェーンや
GEなどいろんな企業はひそかに毎年キューバに来て、経
済封鎖が解けたらすぐにでも商売がはじめられるように
約束しているとの事。アメリカ人もキューバとは取引し
たいみたいです。
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